このページでは古代ギリシャ、ローマを題材にした文学などを紹介していきます。

・クリストフ・ランスマイアー 『ラストワールド』 高橋輝暁/高橋智恵子訳 中央公論社


『ラストワールド』は、オーストリアの作家クリストフ・ランスマイアーによる、古代ローマ、アウグストゥス帝時代の詩人オウィディウスの「変身物語」を原典にしたファンタジー小説である。
詩人オウィディウスは史実上、アウグストゥス帝に追放され、辺境の黒海の地で客死した謎の人物だ。
アウグストゥスが、なぜオウィディウスを追放したかはわかっておらず、古代ローマ史のミステリーの1つとされる。
この小説はその史実を踏まえ、ある1人のローマ人が、追放されたオウィディウスを探しに辺境の黒海の町へと旅する話である。
主人公のローマ人コッタは、オウィディウスを追い求める途中、様々な登場人物たちと出会い対話する。
登場人物たちは皆、オウィディウスの「変身物語」や古代ギリシャ・ローマの神話や伝説に由来し、さらにランスマイアーの独自の世界観が加わった謎めいた魅力的な人々である。
主人公は登場人物たちの変身を目撃し、さらには自分自身も変身を遂げていく。
登場人物たちの変身、空間の変化を綴るランスマイアーの美しい言葉の力は、世界の輪廻転生を想起させ、読み手を快楽へと導く。



・ラシーヌ 「ブリタニキュス」『ブリタニキュス ベレニス』渡辺守章訳 岩波文庫


「ブリタニキュス」は17世紀のフランスの劇作家ジャン・ラシーヌの古代ローマ皇帝ネロを題材にした悲劇。
いかにして暴君ネロが誕生したかがテーマで、ラシーヌ自身はこの作品を「怪物ネロの誕生」と説明した。
ネロが母アグリッピナと決別し、最初の殺人行為、義理の弟ブリタニクス毒殺に至るまでのストーリーは、タキトゥスの『年代記』に基づくが、創作でブリタニクスの恋人として、架空の女性ユリアが登場する。
ネロのユリアへの叶わぬ恋が、ネロを狂気へと導く。

「ベレニス」も同書に収録されている。
「ベレニス」は古代ローマ皇帝ティトゥスとユダヤの女王ベレニケの恋愛悲劇。
父帝ウェスパシヌスの亡き後、皇帝の座についたティトゥスは、理想のローマの統治者を目指し、異国の女王ベレニケとの恋愛に終止符を打とうとする。
ティトゥスとベレニケは狂おしい恋の情念に揺さぶられ、身を滅ぼしそうになるが、女王は皇帝のために痛わしい決断を下す。


・アルベール・カミュ 『カリギュラ』 岩切正一郎訳 ハヤカワ演劇文庫


アルベール・カミュが古代ローマ皇帝カリギュラを題材に、世の不条理について書いた戯曲。
カリギュラが実の妹ドルシラをこよなく愛していたという史実を踏まえた作品である。
最も愛した女性、ドルシラが死んだ後、孤独となったカリギュラが主役となって劇は展開する。
カリギュラはローマの統治者として仲間に囲まれているが、ドルシラの死により、人間としては孤独である。
カリギュラはこの不条理に真っ向から立ち向かうため、周囲は彼を狂人と呼ぶ。
誰しも人間の中にはカリグラが潜んでいることに気づかされる感慨深い作品。


・テオフィル・ゴーチェ 「ポンペイ夜話」『死霊の恋/ポンペイ夜話』田辺貞之助訳 岩波文庫


テオフィル・ゴーティエのポンペイ遺跡を題材にした、傑作幻想小説「ポンペイ夜話」(原題:Arria Marcella ou Souvenir de Pompei,1852)は読み手を古代ポンペイの幻想へと誘う。
ストーリーはフランス青年オクタヴィアンが、ポンペイで発掘された女性の胸の押型と博物館で出会うところから始まる。
オクタヴィアンはこの女性の遺物に一瞬で心奪われ、はるか昔にポンペイ噴火で亡くなったこの女性へ思いを募らせる。
不可思議なことに、ある夜オクタヴィアンは、在りし日のポンペイへと誘われ、博物館で見た押型の女性、アッリア・マルチェッラと出会い2人は熱烈な愛にもだえていく。


・テオフィル・ゴーチェ「クレオパトラの一夜」 「金の鎖、またはもやいの恋人」 『フランス幻想小説 魔眼』小柳保義訳 現代教養文庫


「クレオパトラの一夜」(原題:La nuit de cleopatre,1838)はテオフィル・ゴーティエによる、プトレマイオス朝エジプト最後の女王クレオパトラをヒロインにした幻想小説。
晩年のクレオパトラはアウグストゥスに滅ぼされるまで、恋人のアントニウスと「アミメトビオイ」(まねのできない生活をする人々)という会を結成して、絢爛豪華な宴会の日々を送ったというエピソードが残っているが、この小説もそのクレオパトラ最後の日々のある一夜を語っている。
女王としてのクレオパトラではなく、1人の女としてのクレオパトラの熱い恋が語れる。

「金の鎖、またはもやいの恋人」(原題:La Chaine d'or ou L'Amant Partagé,1837)も同書に収録されている。
この作品は古代ギリシャの2人の遊女、プランゴンとバッキス、美青年クテシアスによる恋の三角関係の話である。
3人の恋は、ある金の鎖を巡って騒動となるが、彼らはそれを乗り越え、固い鎖のような愛で結ばれれていく。


・ホルヘ・ルイス・ボルヘス 『幻獣辞典』柳瀬尚紀訳 スズキコージ絵 晶文社


アルゼンチンの作家、ホルヘ・ルイス・ボルヘスによる古今東西の空想動物に関する書物。
邦題は幻獣辞典ではあるが、作品の内容は、様々な空想動物がエッセイ形式で語られる。
古代ギリシャ神話の幻獣(ケンタウロス、スフィンクス、ケルベロス、etc)についても多数掲載されている。
迷宮の作家ボルヘスを通して語られる幻獣たちは実に魅惑的で空想の世界へと引き込まれていく。


・ホルヘ・ルイス・ボルヘス 『夢の本』堀内研二訳 河出文庫


眠る時に見る夢にまつわる古今東西のエピソードが113編綴られた、楽しい書物。
カエサルの暗殺日、3月15日にまつわる夢や、スキピオの夢など、古代ローマ・ギリシャ関連も多数掲載されている。