古代ローマコイン 共和政期 前63年 ルキウス・カッシウス・ロンギヌス デナリウス銀貨 投票するローマ市民が表されたコイン

古代ローマコイン 共和政期 ルキウス・カッシウス・ロンギヌス デナリウス銀貨

前63年、ローマ発行(前60年発行とする説有り)

オモテ:ヴェールを被ったウェスタ神の肖像 顎の下にC 首の後ろに両取っ手付きの杯

ウラ:LONGIN III V (longinus trivmvir ロンギヌス 貨幣発行3人委員) 投票箱に投票する、トーガを着たローマ市民 投票板にはVの文字 ( VはVti rogas 「賛成」を意味する)

サイズ:3,83g 18mm


前63年にローマで発行された、投票の様子が刻まれたデナリウス銀貨である。
コイン発行推定年である前63年といえば、キケロの弾劾演説で知られる、カティリーナの陰謀が起った年である。
しかしカティリーナ支持者で、ローマの街に火を放つと宣言したルキウス・カッシウス・ロンギヌスと、この同名の貨幣発行委員は別人である。

この貨幣発行を担った、ルキウス・カッシウス・ロンギヌスは、前2世紀末の著名なプレブス(平民)出身の政治家、ルキウス・カッシウス・ロンギヌス・ラウィッラ(Lucius Cassius Longinus Ravilla)の一族であると推測されている。

ルキウス・カッシウス・ロンギヌス・ラウィッラは、前114年のウェスタの巫女裁判において、厳格な判決を下したことから、法に公正な人物として知られる。
裁判では3人のウェスタの巫女が、純潔を破った罪で起訴された。有罪となれば、彼女たちには死が待っていた。
一度、3人の巫女たちのうち2人は、最高神祇官カエキリウス・メテッルス・ダルマティクスによって、無罪とされた。
しかしこの判決は、貴族たちの裏工作が働いたと批判された。(ウェスタの巫女は貴族の娘から選ばれていた)
判決に対するローマ市民の批判は止まず、平民出身のルキウス・カッシウス・ロンギヌス・ラウィッラによって、この事件は再審されることとなった。
ルキウス・カッシウス・ロンギヌス・ラウィッラは、巫女3人ともを有罪とし、彼女たちは死罪となった。


さらに、ルキウス・カッシウス・ロンギヌス・ラウィッラは、前137年に護民官であった時に、投票に関するカッシウス法(Lex Cassia tabellaria)を提案したことでも名高い。
カッシウス法は、前139年のガビニウス法に続いた投票に関する法であった。
前139年のガビニウス法は、ローマで初めて秘密投票を提した法であったが、これは高官選出の投票に限られていた。
前137年のカッシウス法は、市民を前に行われる裁判においても、秘密投票を実施することを提した法であった。

これらのルキウス・カッシウス・ロンギヌス・ラウィッラの業績を、このデナリウス銀貨の意匠は意味してしていると推測されている。
オモテ面には、ウェスタの巫女裁判を思い起させる、女神ウェスタの肖像が刻まれている。
ウラ面には、投票を行うトーガを着たローマ市民が刻まれている。
この人物は右手で投票板を投票壺に投じている。
投票板にはVti rogas (賛成)を意味する、Vの文字が刻まれている。
提出された案件に対して、賛否を問う投票では、賛成であればVが記された投票版を投票箱に投票し、反対であれば、antiquo(反対)を意味するAの文字が記された投票版が投じられた。

投票版にVの文字が表されている

このコインの投票の意匠からは、平民出身のカッシウス・ロンギヌス一族が、投票法の改革によってローマ市民の権利を擁護してきた業績を示す意図があったと推測される。
このコインが発行された頃のローマは、前63年のカティリーナの陰謀にあげられるように、暴力が法を凌駕する時代となっていた。
この貨幣発行人は貨幣意匠を通して、投票による秩序だった政治をローマ市民が行うべきであると表明したかったのかもしれない。
古代ローマコイン 共和政期 前63年 ルキウス・カッシウス・ロンギヌス デナリウス銀貨 投票するローマ市民が表されたコイン