古代コイン、今日の1枚

アクティウムの海戦勝利を記念したアクティウムのアポロンが刻まれた、アウグストゥス帝の銀貨

古代ローマ帝国初代皇帝アウグストゥスのコインの肖像や彫刻を見ているといつも思うことがあります。
「アウグストゥスの顔ってイケメンすぎやしないか・・・」ということ。

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ローマ・マッシモ宮のポンティフェクス・マキシムス(最高神祇官)姿のアウグストゥスの彫像 前1世紀頃

アウグストゥスが美男であったことは歴史家の記述にも残されていて周知の事実ではありますが、それにしても本物の人間ではないかのような美しさ。
理想化された美青年そのものといった感じ。

理想化された美青年といえば、神話の世界ではアポロン。

アポロンはギリシャ神話の光明、医術、音楽、予言を司る男神。
中性的な美しい姿で表されるのが常で、ローマでもそのままアポロの名で信仰されていました。

アポロンの子、アウグストゥス。
2世紀のローマの歴史家カシウス・ディオは、
古代ローマ帝国初代皇帝アウグストゥスはアポロンの子だという話を記述しています。
アウグストゥスの母アティアは神殿で寝ている間に蛇(アポロンの化身)と交わってアウグストゥスを身ごもったというのです。

この話は後に作られた神話にすぎませんが、
確かにアウグストゥスはアポロンを自身の守護神として崇めていました。
そのことを証明する一つの史料が、今回買い付けたアクティウムのアポロンが刻まれたアウグストゥスのデナリウス銀貨です。
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オモテ面は美しいアウグストゥスの肖像 肖像の周りにはAVGVSTVS DIVI F(アウグストゥス、神(神格化されたユリウス・カエサル)の子)の銘。

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ウラ面は左手にキタラ(ばちで弾く竪琴)、右手にプレクトラム(ばち)を持ったアクティウムのアポロンの立像 立像の横にはIMP X(10回目のインペラトル就任)、下部にはACT(アクティウム)の銘。
下部にアクティウムの略であるACTの銘があることから、このコインがアクティウムの海戦の勝利を記念していることがわかります。
このコインのアポロンはアポロ・アクティアクス(アクティウムのアポロン)と呼ばれています。
このデナリウス銀貨の発行推定年は前15-13年。
アウグストゥスがアクティウムの海戦の勝利でエジプトをおさめてから20年近くが経とうとしている頃に発行された銀貨。
アウグストゥスがアクティウムの海戦の勝利でエジプトを支配したことをどれほど誇りに思っていたが伝わってきます。


オクタウィアヌス(アウグストゥス)は前31年、アクティウムの海戦でアントニウスとクレオパトラを倒し、ついにローマの最高権力者に登りつめました。
このアクティウムという町はギリシャ北西部アルタ湾(現在のAmvrakikos湾)口の岬に位置します。
この地はアポロンの聖域があったことで知られ、アポロン神殿や森がある神聖な場所でした。

オクタウィアヌスはこのアクティウムのアポロンの加護を受けてアントニウスとクレオパトラに勝利したと主張したに違いありません。

オクタウィアヌスは前30年にイタリアに帰還した後、ローマ・パラティヌスの丘に自身の邸宅を含め、自らの権威を象徴する建物の建設に着手しました。
その要となったのがアポロン神殿で、前28年にパラティヌスの丘のアポロン神殿が完成。
パラティヌスのアポロン神殿にはギリシャ、アッティカ地方のラムヌスから運ばれたスコパス(前4世紀のパロス島出身の著名な彫刻家)のアポロン像が祀られていたと云われています。
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ローマ・カピトリーニ美術館のスコパスのアポロン像の模作と言われている彫刻 2世紀頃

このコインに刻まれたアポロンは上写真のスコパスのアポロンをモデルにしているという考えもあります。
確かにコインの長い衣と大きなキタラを持ったスタイルはスコパスのアポロン像を彷彿させます。

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こちらもキタラを持ったアポロン、こちらは2世紀頃の座像 ナポリ考古学博物館

さらに、オクタウィアヌスはアクティウムの海戦の勝利の後、アクティウムでアポロンに捧げる競技会を開いていました。
競技会ではアポロンに捧げる運動競技や音楽の演奏会が行われました。
そして前28年頃、アクティウムの湾を挟んで反対側に、ニコポリス・アクティアという名(アクティウムの勝利の都市という意)の都市の建設に着手。アポロンの競技会もこのニコポリス・アクティアの地で開催されるようになりました。

以上のように心底アポロンを崇拝していたアウグストゥス。
コインの肖像や彫刻の顔がアポロンに似ているのは気のせいではないはず。
いつもタイムスリップして本当のアウグストゥスの顔を一目見ることが出来たらと愚かな思いを抱きます。
そんな時はコインの肖像を眺めるとしよう・・・。